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銀座もとじ

2010年1月24日

生糸一本へのこだわり「銀座もとじ」男のきもの

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絹製品における国産自給率はわずか1%を切ると言われている。現在その多くはブラジルや中国からの輸入生糸に頼っている。呉服店「銀座 もとじ」の社長泉二弘明さんは、その現状を憂慮するひとりだ。

2009年秋、海外留学先から戻り、同社に入社したばかりのご子息啓太さんがまだ小学5年生の頃、何気なく口にしたひと言に衝撃を受けた。「着物は何からできているの?」。
蚕が糸を吐いて、生糸となり、絹ができる。息子のように、まだ見たことがない人たちは多いはずだと思い決心した。泉二さんは、群馬県にある蚕糸試験所に協力を求め、5000頭の蚕を分けてもらい、銀座の店で飼うことにした。「半月の間、商売をやめ、蚕のための館にしました」

この原体験とも言える蚕の飼育経験は強烈で、「生糸一本からこだわった、作り手の顔が見える物作りがしたい」という現在の方向性を決定づけた。国からの要請を受け、オスの蚕だけから作られる生糸「プラチナボーイ」の商品化に着手できたのも、その熱意が伝わったのだろう。「14年前の願いが叶ったのです。思い続ければ、チャンスをもらえるのですね」

オスの蚕は、メスに比べると個体が小さく、そのため口が小さいので吐き出す糸は細く均一だそう。しかも長さがあり、白くて光沢がある。多くの関係者がオスの蚕の繭だけを使った生糸を作りたいと願い、研究者は37年もの年月をかけてオスの蚕だけが孵化する仕組みを見つけた。

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出来上がった泉二さんの「プラチナボーイ」の反物には、「糸」「織」「染」の担当者の名前が連ねてある。「着物は日本の心です。日本の心がわかる人が物を作らないといけない。養蚕農家の名前を出すことで、いい蚕を育てるため、環境をよくしていくのです。例えば、蚕は寒くなると糸を吐くのをやめます。そうするとふしが出たり、毛羽立ったりしてしまう。いい物を作るためには、温度調節をするようになります。今いる人たちがいなくなったら、日本から養蚕農家はなくなってしまう。物作りの後継者を育てるためには、格好いいと思ってもらえるモデルケースを作らなければいけません」

泉二さんの熱意が養蚕農家の人たちや職人たちの心を動かしている。「私は、みんなが笑顔になったり、活気づくことが嬉しい。そのためにリスクも背負っています。繭は自然のものだから、いいときも悪いときも買い続けないといけない。物によっては、真綿にしたり、長襦袢にします。常に火傷をしながら続けています」

もうひとつ、ライフワークとも言えるのが銀座の柳の木を利用した柳染め。奄美大島出身の泉二さんとって、銀座は子供の頃から憧れの場所だった。銀座で商いをするようになり、春にきれいに芽が出て、初夏に伸びていく柳を見ながら、やがて刈り取られて捨てられていくことを惜しみ、役所から許可を得、草木染の職人に頼み、3、4年の歳月と労苦を経て、商品化にこぎつけた。店で蚕を育てていたときに見学に来てもらった、ご子息の通っていた泰明小学校の生徒には、毎年、柳染めを指導している。近年は奄美大島から泥を空輸し、泥染めも体験してもらった。銀座で暮らす子どもたちにとって、草木や泥に触れることは大自然に触れるに等しいことだろう。

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着物を着ることは、着物にふさわしい自分になろうとするため、人磨きや男磨きになるという。パーティなどで一目置かれるほか、仕事や商談がスムーズに事運ぶというのは、頷ける話だ。泉二さんに男の着物入門の極意を教わった。「着崩れしにくいので、最初は紬を注文してみてはどうでしょう。注文してから仕上がりまで、約3週間はかかりますから、その間に家に帰ったら、毎日、浴衣に着替えます。そうすると、最初は袖に物を引っかけていたのが、着物が出来上がる頃には、たもとを押さえるなどの所作が自然と身に付いているのです。男の着こなしに関しては、帯一本で勝負が決まります。よく帯をベルトの位置に締めがちですが、帯はへその下まで落とすことが大切。1cm上がっているだけで、ずいぶんと子供っぽく見えます。真横から見ると、前を落として、後ろが上がった状態にしてください」

海外の方には、街並みや空間に合った色をすすめているそうだ。「例えば、東京やニューヨークの街並みには、黒やグレーが似合います。イタリアは石畳なので、どこかに明るめの朱色系が入るといいですね。パリは華やかなものが似合うので、白っぽい色がおすすめです」

住所:東京都中央区銀座3-8-15
電話:03-5524-7472
営業時間:11:00〜19:00
定休日:無休(年末年始を除く)
http://www.motoji.co.jp

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